柑橘の育て方
先代の父・敏夫より畑を受け継ぎ、広島県尾道市瀬戸田町で柑橘農家を営んでいる能勢賢太郎です。
今は尾道市になりましたが、坂の多い本州の港町ではなく、しまなみ海道で橋を3つ渡った生口(いくち)島とすぐ隣の高根(こうね)島に瀬戸田町はあります。
生口島も高根島も山がちで急斜面が多く、農作業には骨が折れますが、逆にその山のおかげで畑の水はけがよくなり、果実に甘みがもたらされます。
先代から化学肥料・化学合成農薬や除草剤を使わない、いわゆる有機農法で柑橘類を育てていますが、後述する理由から有機認証は取得していません。
農業にはさまざまな手法があり、それぞれに利点と欠点があり、これが絶対だと確立されたものはありません。ただ、父から受け継いだ土地と哲学、それにわたしなりの考え、また自然から教えられることを加えながら、安全でおいしく身体に良い柑橘ができるよう心がけています。
土づくり
柑橘の樹は水はけと通気性の良い土を好みます。水はけが良いと甘い実ができ、通気性が良いと微生物の活動が活発になり、根が多く生え、樹が土の養分をたくさん吸い上げて元気な樹に育ちます。
まず、良い土を作るためには、微生物を殺し、土を固くする除草剤は使いません。雑草は草刈り機や鎌で刈りとります。
必要な栄養素だけを樹に補給する化学肥料ではなく、鉄やマンガンなどミネラル分が豊富な魚ぼかしや自生する草などの自然な有機質肥料を畑に撒きます。微生物がそれを分解し、樹が根から吸収します。樹が元気になると、奥行きのある味の濃い果実が出来ます。
しっかりした実をつくるには、若い葉が十分に光合成をすることが必要です。そのために剪定作業を行ない、不要な枝葉を落としますが、その枝葉は、バーク堆肥、もみ殻くん炭などと共に土の通気性を良くするのために使います。また、土壌改良のために、牛ふんや石灰などを入れ、微生物が住みやすい環境をつくります。土の中の自然の営みに、人の力を添えて、地道な作業を長年続けることにより、土がフカフカになり、水はけが良く通気性の良い『生きた土』になります。
有機栽培と農薬について
農作物の栽培方法には、大きく分けて「慣行栽培」「特別栽培」「有機栽培」「自然栽培」の4つがあります。
農薬という観点で見ると、もっとも一般的な手法である慣行栽培では、もちろん安全基準がありますが、農薬を使います。特別栽培または減農薬と呼ばれるものはその農薬使用回数を半分以下に抑えたもので、自然栽培は当然無農薬です。
有機栽培について「無農薬ではないのですか?」と尋ねられることがしばしばありますが、有機=無農薬ではなく、必要に応じて使用できる農薬が認められています。必要に応じてとは、「農産物に重大な損害が生ずる危険があり、農薬の使用以外には効果的な防除ができない」場合です。
農薬と言っても天然由来のもので、毒劇に指定されているものはありません。認められているのは、銅や硫黄を成分とした薬剤、天敵や微生物などを用いた生物農薬、性フェロモン剤などです。
セーフティフルーツでは有機JAS規格で使用が認められているうちの3種類だけを使用しています。
農薬は撒かないに越した事はありませんが、病害虫被害の度合いによっては、全く出荷できないほどの果実になってしまうことがあり、致し方なしというところです。
病気になった葉や枝はなるべく手で除去し、味に影響がない潰瘍病の被害の軽いものなどは当農園では出荷します。見た目が悪いからといって廃棄することは作り手としては心が痛むことで、それを理解してくださるお客様には感謝しています。
下記の「薬剤一覧と用途」に具体的な薬剤名と使い方を記しますので、参考にしてください。
もうひとつ広く誤解されていることですが、有機栽培の農作物は、「有機栽培の手法で作られたもの」ではありません。
正確には「JAS(日本農林規格)が定める有機栽培の手法で作られ、農林水産省が認める登録認証機関の認定を受けたもの」です。
たとえ有機JASの定める農法で作られたものでも、認証が無ければ「有機」や「オーガニック」という表示はできません。
有機JAS規格は安心して購入できる目安とはなりますが、小規模農家にとって認証の取得にかかる費用と手間は重い負担です。
創業以来、信頼してご購入いただいているお客様に、有機JASの取得費を負わせることは申し訳なく、栽培自体には無関係な費用を抑え、なるべく安価に提供したいという思いがあり、敢えて認証は取得していません。
ただ、取得が比較的容易な広島県の「特別栽培」の認定は受けています。
薬剤一覧と用途
全般的には、マシン油とイオウフロアブルの2種類を、潰瘍病に弱い下記の品種にはICボルドーを追加し使用しています。ただ、毒劇物農薬と比べると効果が低く、全滅を免れるための農薬であって、完全には病気を防ぐことはできません。
例えば、潰瘍病は、葉っぱの傷からウイルスが入ることによって発生します。ICボルドーで菌の繁殖を防いでも、雨で流れたり、葉に傷を付けるハモグリガの被害があると、すぐに拡大していきます。
潰瘍病になりやすい品種:
レモン、姫レモン、ライム、ブラッドオレンジ、ベルガモット、ネーブル、甘夏、バレンシアオレンジ
「マシン油乳剤」
果実の収穫を終えた樹に散布します。カイガラムシの大量発生した園地に撒き、呼吸器官を詰まらせて物理的に窒息死させるという方法で、殺虫剤に分類されますが、神経毒ではありません。年に1回、被害の多い園地には2回散布します。
「イオウフロアブル」
読んで字の如く、硫黄です。果皮に悪さをするサビダニやホコリダニをイオウによって殺します。年に3~4回、春~初秋にかけて散布します。
「ICボルドー66D」
銅水和剤という潰瘍病の殺菌剤で、主成分は銅です。銅を樹に付着させ、それが酸化することにより殺菌効果が生まれます。収穫を終えた園地に、春と初夏の年2回散布します。